これを見て下さいと、袋から数個の入れ歯を取り出し、これは◯◯歯科大学の教授に、これは有名な◯◯の先生に、◯◯先生に・・・、と噛めないと称する入れ歯を袋にいっぱい入れてお持ちになる患者さんは案外多くおられます。おっしゃる事も大体同じです。
以前NHKテレビで噛めない・話せない・笑えないとか言う番組を見た人はおわかりでしょう。ではどうして?歯医者が入れ歯を作らなくなった、患者を診たことがない技工士さんたちが作っているとNHKは放映しました。
しかしながらもっと大きな理由があるのです。教育です。入れ歯作り(技工)は技工士に任せれば良いという風潮のもとで、その研鑽もなおざりにされています。
技工をしてその結果を数多く体験する事で、型のとり方や噛み合わせのとり方、歯の並べ方が見えて来るのです。そのプロセスが解らない者に完成品を渡されても、良否の判断が出来るわけも有りません。患者様から痛いと言われればバサバサ削るだけしか出来ません。
入れ歯は顔の一部と言うより、口の中に収まってしまう人工臓器です。咀嚼や発音の機能を回復し、容貌を回復し、顎や歯肉、歯を保護する完璧な人 工臓器です。入れ歯が患者さんに適合していると言う事は、その機能に満足していると同時に、精神的にも生活様式の上からも満足されていなければなりません。
入れ歯作りは印象採得に始まりますが、口を開いた状態で採る方法、入れ歯が働いている状態を想定しながら採る方法、食事中や会話をしている状態のまま採る方法等あります。どれが快適な結果が得られるかはおわかりのことでしょう。
次は噛み合わせの高さや顎の動き方を計測し、歯形を咬合器(入れ歯を作る機器)に取り付けます。次に人工歯を顎の大きさ・顔の形・顔色等に合わせて患者さんの希望も容れながら選び、これを配列します。若返りたい・優しそうに見せたい・力強くとか、この段階で前歯を表現するのです。
白歯の配列は何 を食べても外れたりひっくり返らないようにします。人工歯の配列の次はピンクの歯肉を彫刻します。あくびをしたり会話をしても外れない形状が必要です。
どの工程についても歯科医師は、患者様をどの様に満足して頂けるかを診ながら作成されるべきだと私は考えます。
型を採って入れ歯を技工士に作らせて口に入れれば噛めるんじゃないかな、では噛めるわけが無いと思われます。